対象となるお子さまと疾患

小学生から18歳未満の子どもの、こころや行動、対人関係の問題全般を対象として診療しています。

学童期・思春期は家庭・学校・地域社会での様々な人との関わりの中で成長・発達する時期です。この大きな成長の時期に、いろいろなことが原因で心の問題を抱えることがあります。児童・思春期精神科はこれらの心の問題についての相談・診療を行う科です。ご家族や学校・地域のかかりつけ医の先生方、地域の関係機関(児童相談所、こども家庭支援センターなど)と連携を取りながら問題解決のための診療を行っていきます。

当センターの特徴は、児童・思春期精神科病棟を有する事や多職種によるチーム医療です。外来・入院ともに医師・看護師・ソーシャルワーカー・心理師が連携を取りながら治療に取り組みます。また入院治療では、上記に加えて、作業療法士も含めた多職種チームがそれぞれの視点で日々話し合いを行いながら治療を進めています。
児童・思春期の心の問題の解決には、生活状況のアセスメントと環境の調整、各種の精神療法、ご家族への支援が欠かせません。これらの治療を提供すると共に、必要な場合には薬物治療も行います。
また、家庭や学校での問題が大きくて治療が困難となっている場合には、入院も可能です。

お子さまが対象です

小学生から18歳未満の児童・思春期のあらゆるこころの問題を対象とします。

具体的には以下のようなものがあります。

  • ● 元気がない・涙もろい・意欲がない・落ち込んでいる
  • ● 不安が強い
  • ● 一人でポツンとしている
  • ● 学校に行かない
  • ● 学校でいじめがあり元気がなくなった・イライライしやすくなった・暴れるようになった
  • ● 落ち着きがない、授業中に立ち歩く
  • ● 注意散漫・不注意の度合いが激しい
  • ● こだわりが強い
  • ● 集団行動が苦手
  • ● パニックを起こしやすい
  • ● 乱暴・暴言や暴力がある
  • ● 喋らない(喋らなくなった)
  • ● ゲームやインターネットによる昼夜逆転
  • ● 睡眠障害(不眠)
  • ● 死にたい気持ちがある
  • ● 自分を傷つけてしまう
  • ● 特定のもの(事柄)を怖がる
  • ● 虐待から生じたこころの問題
  • ● 自分の行動の記憶がない
  • ● 幻が見える・聞こえる

他の診療科や関係機関での対応が適切と考えられる場合は、そちらでの相談をお勧めすることもあります。
なお、18歳以上になられましたら、原則として成人向けの精神科サービスへの移行を推進しております。あらかじめご了承願います。

主な疾患と治療内容

1. 自閉スペクトラム症(ASD)/ 注意欠如多動性障害(ADHD) / 学習障害(LD)

これらの疾患は、「発達障害」とも呼ばれ神経発達の問題と考えられ、生まれ持っての特徴と言えます。私たちはこれを障害というよりは「脳のタイプ」の問題と考えています。

自閉スペクトラム症の人は、対人関係やコミュニケーションを柔軟に行うことが苦手で、興味関心が偏り、物事のやり方にこだわりが強いなどの特徴をもっています。また注意欠如多動性障害は、不注意や集中困難、衝動性の高さ、多動などが見られる疾患です。学習障害は、知的な発達の問題はないけれど、一部の能力(書字、読字、計算)のみが障害されているものを言います。
これらのお子さんの治療では、各々のご本人の特性(困りごと)に合わせた対処の仕方や環境の調整が必要です。ご家族の方々や学校の先生との連携もとりながら治療をすすめていきます。必要な場合には薬物治療も行います。また、入院治療ではご本人に向けたソーシャルスキルトレーニング(SST)、ご家族に向けたペアレント・トレーニングや、日常生活スキル向上のための治療やアドバイスを受けてもらうことも可能です。

2. ひきこもり

18歳未満のひきこもりに悩む方を対象に医師、看護師、心理専門職、ソーシャルワーカーなどで構成される多職種のチームアプローチにより、回復を支援します。入院治療の場合は、まず病棟生活に慣れていただくことから始めて、無理のない範囲で対人交流を拡げ、慣れてきたら少しずつ病棟の日課やグループ活動にも参加していただきます。生活リズムの調整も行います。不安や強い緊張には、精神療法(話をすることで問題を解決していく方法)を行います。加えて薬物療法を行うこともあります。今後の生活や進路について充分に話し合い、退院後、充実した生活が送れるように支援します。

3. 摂食障害

摂食障害の治療では早期に発見し早期に治療をする事が大事であると言われています。 摂食障害には神経性やせ症、神経性過食症、回避・制限性食物摂取症などがあります。神経性やせ症は、最初はダイエットから始まることも多いですが、体重が減れば減るほど、太ることへの恐怖が強くなっていき、痩せているのに、太っていると感じてしまうボディーイメージの障害を伴うことが多いです。標準体重の85%以下の場合治療が必要です。お子さんの体重が急に減った、痩せてきた場合には早めにご相談ください。
児童・思春期の摂食障害の患者さんに対しては、イギリスのNICEガイドラインやアメリカの精神医学会のガイドライン、オーストラリアのガイドラインなどで、家族を含む治療が有効であるとされています。家族を含む摂食障害の心理療法であるモーズレイ摂食障害家族療法(FT-AN)や、それをマニュアル化したFamily Based Treatmentの有効性を示す論文が多く出されており、当科でもFT-AN およびFamily Based Treatmentのトレーニングを受けた医師がそれに基づいた治療を行なっています。

4. 不安障害・強迫性障害

通常は危険ではない状況で過度に不安になってしまう状態を不安障害と呼びます。突然理由もなく激しい不安に襲われて、心臓がドキドキする、めまいがする、息が苦しくなるなどの症状が見られるパニック障害や、人が沢山いる場所に行くことや、人と話す事に強い苦痛を感じる社交不安障害、生活上のさまざまなこと(学校のことや友人関係の事、家族のことなど)に極度の不安を覚える全般性不安障害などがあります。また不合理だとわかっていても、その考えを打ち消せなかったり、不安を解消するために様々な行動(儀式)を繰り返さずにはいられない状態が強迫性障害です。近年、子供の不安に対する研究が数多く発表されており、問題の解決には、ご家族や周囲の協力の必要性や、認知行動療法などの精神療法・グループ療法も有効と言われています。他の病名との並存も多いと言われており、これら精神療法と薬物療法を合わせて治療しています。

5. 心的外傷後ストレス障害(PTSD)・適応障害

心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、自然災害、激しい事故や、暴力、他人が暴力にさらされるのを目撃する事、テロ、戦争などの、命に関わるような、誰もが大きな苦悩を感じるような体験をし、強い衝撃を受けたあとに生じます。その体験の記憶を自分の意思とは無関係に思い出してしまったり、悪夢をみたり、その出来事を思い出させる状況を避けたり、常に緊張して張り詰めていたり、以前は楽しめていたことが楽しめず、幸福感がもてなくなったりするなどの症状が見られます。治療は、精神療法や、薬物療法です。トラウマを扱う専門的な精神療法がありますが、信頼できる治療者と話をすることもとても大事です。

適応障害とは、強いストレスによって起きる心の不調です。気分の落ち込みや、不安、神経質になるなどの症状が見られ、その結果学校にいけないなど日常生活に支障をきたす場合もあります。
治療にはストレスを軽減するための環境の調整や、ストレスに対処する方法を学ぶための精神療法を行います。薬物療法を併用することもあります。

6. 気分障害・うつ病

気分の落ち込みや意欲や食欲の低下、不眠、激しい気分の揺れや、普段と違う興奮状態が続くなどの症状があります。お子さんのこれらの症状は診断が難しいことも多く、他の病名と併存している場合もあるため、まずは専門家による診断が大切であると言われています。精神療法や薬物療法を行います。家庭や学校などの生活環境を整える必要がある場合も多く、症状が強い場合には入院による加療も行っています。

7. 統合失調症

他の人には聞こえない声や音が聞こえたり、姿が見えたりするような陽性症状や、ちょっとみるとうつ病と間違えてしまうような、意欲の低下や引きこもりという陰性症状が混在する疾患です。
治療には脳神経の伝達物質の活動異常を修正するための薬物治療がとても重要です。ご本人にあった薬物治療を早期に始めることの大切さも知られており、近年多くの新しいお薬が開発され、副作用の少ない治療が工夫されています。薬物療法と並行して精神療法、生活指導、リハビリテーションが行われます。急性期の症状が強い場合には入院加療も可能です。

8. そのほかの状態

児童・思春期精神科では、精神科の診断はつかない場合でも、不登校や、いじめ、家庭内の大きな変化などによる心や行動の不調を扱います。